韓国におけるES細胞の研究者・黄禹錫教授は捏造や不正が発覚し地位が失墜しましたが、現在が気になりますよね。
今回は黄禹錫教授の経歴、ES細胞の研究や成果、捏造事件の犯人となった経緯やその後、現在をまとめてみました。
この記事の目次
【ES細胞研究で捏造】韓国の教授・黄禹錫のプロフィール
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名前 : 黄禹錫(ファン・ウソク)
出身地 : 忠清南道扶余郡
生年月日 : 1952年1月29日
学歴 : 大田高等学校・ソウル大学校獣医科大学卒業(1977年卒)
黄禹錫さんは韓国の生物学者です。クローン研究者であり、獣医でもあります。
元ソウル大学校の獣医科大学教授としても知られています。(後、懲戒免職)
1970年代~90年代の経歴
1979年にソウル大学校で家畜臨床繁殖学修士号、1982年には同博士号を取得します。
1984~1985年、北海道大学獣医学部に客員研究員として留学し、金川弘司氏に師事しています。
1986年にソウル大学校専任講師となり、1987年には同助教授となっています。
1993年、獣医科大学副教授となります。そして、韓国初となる牛の人工授精に成功しました。
1997年には同教授となり、ソウル大学校動物病院院長となりました。
1999年、同獣医科大学副学長となります。
また、韓国初となる牛のクローンを誕生させたことが報じられ、社会的な関心や評価が低いとされる獣医学の分野でありながら脚光を浴びました。
2000年代以降の経歴
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2003年、牛海綿状脳症 (BSE) に耐性を持った牛、さらにヒトに臓器を提供できる無菌処理をした豚を誕生させたことが報じられ、世界的な研究者として名が知られるようになります。
2004年に同碩座教授、2005年に同獣医科大学学長となりました。そして、世界初となる犬のクローン(スナッピー)を誕生させることに成功させています。
2004年と2005年、Nature誌に載った2本の論文から世界レベルのヒトのクローン研究者として、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)の研究を世界に先駆けて成功させたと報じられました。
自然科学部門における、韓国人初のノーベル賞受賞に対する韓国政府や韓国国民の期待を一身に集めたこともあり、韓国では「韓国の誇り」 (pride of Korea) と称されています。
しかし、2005年に卵子の入手方法や論文捏造疑惑により、韓国でも大騒ぎになりました。
2010年代から、NT-1細胞の特許がカナダやニュージーランドなど各国で認可されるようになりました。
2013年5月、ナショナルジオグラフィックチャンネルにて、ロシアでのマンモス復元プロジェクトの特集が組まれ注目されました。
同年、イギリスで愛犬のクローンを賞品とするコンテストを行ったことで、倫理的な議論を呼ぶものの、キャンペーン自体は成功を納めています。
2014年、ついにクローン犬誕生
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2014年1月、かつて論文不正の舞台とされたNature誌でもクローン研究者として改めて特集が組まれるなど、国際的な復権の兆しが見られました。
同年2月には、NT-1細胞の特許がアメリカで認可されています。
同年4月、イギリス初のクローン犬が誕生しました。これまでに、500名が秀岩生命工学研究所に愛犬のクローンを申し込んでいると言われています。
しかし、ヒトの研究者としては韓国の学界からは追放されたままです。そのため、当局から幹細胞研究の認可が下りない状態となっています。
また、ソウル大学調査委員会や韓国幹細胞学会などは、NT-1細胞を「黄禹錫氏の意図した製法ではなく偶然出来たもの」として認めていないため、特許の登録を巡って裁判で係争中です。
しかし2015年、中国で建設されている世界最大のクローン工場への協力が報じられています。
そして同年、韓国映画「提報者 ~ES細胞捏造事件~」のモデルになりました。
ES細胞とは
ES細胞とは、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞細胞株のことです。
英語の頭文字をとり、ES細胞(イーエスさいぼう、ES cells)と呼ばれています。体細胞より作られる人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは異なるものです。
生体外にて理論上、すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させることができるため、有力な万能細胞の1つとして再生医療への応用が期待されています。
マウスなどの動物由来のES細胞は、体外培養後に胚に戻して発生させることで、生殖細胞を含む個体中の様々な組織に分化することができます。
また、その高い増殖能力から、遺伝子に様々な操作を加えることが可能です。
これらを利用して、相同組換えにより個体レベルで特定遺伝子を意図的に破壊したり(ノックアウトマウス)、マーカー遺伝子を自在に導入できるため、基礎医学研究では既に広く利用されています。
遺伝子疾患の患者の核を移植したntES細胞を用いると、この細胞を適切に分化させることで生検しなくても患者と同じ表現形質を持った体細胞を多量に得ることができます。
このような体細胞は、病因の研究や薬剤のスクリーニング(選別)などの治療法の開発に有用です。
再生医療についてはまだ開発中
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ヒトES細胞を用いた再生医療については、現時点ではまだ開発中であり、実現はされていません。
ES細胞を再生医療に応用するためには、まずES細胞をある特定の細胞に分化させなくてはなりません。
そのため、神経細胞や心筋細胞・膵臓ベータ細胞などに効率的に分化させる方法が盛んに開発されています。
ヒトの場合、受精卵を材料として用いると生命の萌芽を滅失してしまうため、倫理的な論議を呼んでいます。
日本では、不妊治療における体外受精で、母体に戻されなかった凍結保存された胚のうち、破棄されることが決定した余剰胚の利用に限り、ヒトES細胞の作成が認められているようです。
iPS細胞の研究とES細胞の研究とは密接に関連しており、その比較研究は必須とされています。
今後も、さらなるES細胞の研究は必要であると考えられています。
【ES細胞研究で捏造】韓国の教授・黄禹錫が捏造事件の犯人となった経緯とは
世界レベルのヒトのクローン研究者として報じられていた韓国の黄禹錫教授に、衝撃の捏造疑惑が持ち上がりました。
黄禹錫教授は自然科学部門における韓国人初のノーベル賞候補者として、韓国政府や韓国国民の期待を受け、「韓国の誇り」(pride of Korea) として称されたこともあります。
しかし、2005年末にヒト胚性幹細胞捏造事件(論文の捏造・研究費等の横領・卵子提供における倫理問題)が発覚します。
第三者による検証の結果、不正や虚偽が認められたため韓国社会・学会・国際的な表舞台から追放されてしまいます。
これにより、黄禹錫教授の学者としての信用は崩落してしまいました。そして、この捏造の影響で、正攻法でES細胞を作り出そうとしていた民間企業が研究を断念せざるを得なくなります。
2007年に山中伸弥氏がiPS細胞の生成に成功するまでの間、ES細胞や再生医療分野の研究の世界的な停滞を引き起こした元凶ともされている黄禹錫教授。
「科学における不正行為」などを書いた書籍ではたびたび言及されるなど、黄禹錫教授が及ぼした悪影響は多大です。
犬のクローンを作ったことは事実
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一方で、犬のクローンに関しては事実と認められており、作製に成功したと主張していたES細胞のうち、NT-1細胞に関しては唯一実在が認められました。
ただし、クローンによるES細胞ではなく、単為発生によるES細胞と結論付けられます。すなわち、2004年にES細胞の作製と世界初のヒトの単為生殖に成功していたことになります。
ですが、論文が不正であり、記されていた作成に至る経過とは関係なく偶然できた物と検証されたため、世界初とはみなされません。
また、他のES細胞はそもそも存在しておらず、1つ以外すべて捏造と結論付けられたのです。
そして、2014年に研究費流用や生命倫理法違反などの罪で懲役1年6カ月、執行猶予2年の刑が確定しました。
【ES細胞研究で捏造】韓国の教授・黄禹錫の捏造事件のその後
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当時、世界初の偉業を韓国人の博士が達成したとして、韓国では国家的な熱狂に沸きました。
科学者でありながら異例のファンクラブが設立されたり、関連書籍が数十冊も出版されるなど、社会現象を巻き起こすほどでした。
韓国人初となる科学分野でのノーベル賞受賞も期待されるなど、歓喜が渦巻いていたのです。
当時は、韓国では黄禹錫教授が箸でES細胞を抽出するシーンが何度も放送されていました。
カメラを前に「韓国人の卓越した箸を使う技術が、ES細胞の抽出を可能にした」と、自信たっぷりに語っていたという黄禹錫教授。
そして、その翌年には世紀の大発見がまったくの虚偽であることが発覚します。英雄から一転、韓国国民の糾弾の的となり、非難されることになります。
まるで捏造がなかったかのように研究を継続
韓国に衝撃を与えた捏造事件から時が経った2014年、黄禹錫教授は韓国国会庁舎に出向いて細胞研究の規制を緩和するように求める行動を起こしたそうです。
同年、アメリカでNT-1という幹細胞の特許を取得しています。海外メディアに取り上げられるなど注目されており、その様子からはあの捏造はまるで無かったかのようにさえ感じられます。
実は、韓国の学会では論文の盗用や捏造は珍しくないそうで、権力でスキャンダルを無かったことにできてしまう社会構造があり、大きな問題となっているようです。
また、韓国日報は、
「黄の『偉大な成果』を韓国の民族性と結びつけた『お箸技術論』が韓国社会で持て囃された原因は、文化的独創性と先進性に異常なまでに執着してきた韓国的集団意識によるもの」
と韓国の過剰な愛国主義を説明しています。さらに、
「最古・最高に執着するのは、歴史的に中国中心の北東アジア文化圏の辺境で暮らしてきた集団的コンプレックスから旧石器捏造事件を捏造した日本人くらいなもので、我が国はそんな意識に染まる理由はない。たとえ2等でもはるかに下は多い。黄禹錫神話の崩壊とともに我々の強迫観念も一緒に解消するよう期待する。」
と、日本人を例に挙げて反省の文が記されました。
韓国メディアによる印象操作
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捏造が発覚した後に反省文を発表した中央日報をはじめ、韓国主要メディアのサイトには科学・技術関連のカテゴリーがありません。
まず、科学的に考察する報道姿勢もほぼ無く、最初から黄禹錫教授という「偉大な韓国人」としての愛国主義的な政治・社会記事として報じられていました。
また、日本人が自然科学系のノーベル賞を受賞すると韓国メディアは「日本人は受賞できて、なぜ我が国は1人も受賞できないのか」という社説や論評を載せ、韓国国民の愛国的対日民族意識を鼓舞していたと考えられます。
このような韓国のメディアの発信方法により、韓国のネチズンがネット上で黄禹錫氏に向けた狂信などが加速しました。
そんな韓国メディアの報道に対して韓国の言論機関は、植民地時代に日本メディアから学んだ権威主義を受け継いでいるとして、英雄(黄禹錫)を客観的に見られなかったと言われています。
ちなみに韓国人のノーベル賞受賞者については、2000年の金大中氏の平和賞以外にはありません。
自然科学分野でノーベル賞に期待がかかった韓国人科学者は黄禹錫さんが最初であり、韓国国民の期待は並々ならないものだったでしょう。
さらに、韓国国家情報院の情報官によると、金大中氏が平和賞を受賞できたのは北朝鮮への不正送金により実現したものであり、受賞も工作活動によるものであると主張していました。
そんなこともあり、韓国国民は正当な成果によるノーベル賞受賞を心から望んでいたと言えます。そして、そんな思いが事件の背景にあったことも事実でしょう。
【ES細胞研究で捏造】韓国の教授・黄禹錫の現在
黄禹錫教授は、その後どのように過ごしているのでしょうか。現在の活動などを見てみましょう。
黄禹錫教授は現在、飼い犬のクローンなどを手掛ける秀岩生命工学研究所の所長として活動しています。
捏造事件により学会などから追放されたものの、韓国内には熱烈な支持者がいると言われており、その支持者の支援により秀岩生命工学研究所を設立したようです。
そして、専門としていた動物のクローンの研究者として現在も研究を続けているそうです。
捏造事件の後は、世界中の愛犬家から注文を受けて愛犬のクローンを製造するクローン犬ビジネスの第一人者となっています。
内外の公的機関からも依頼を受けており、軍用犬や警察犬・優秀な麻薬探知犬のクローン犬Toppyやコヨーテのクローンなどを製造し、業績を上げています。
その一方で、表舞台に再び現れた黄禹錫教授に対する倫理的な批判は根強くあるようです。
まとめ
世紀の大発見が捏造と認められ、学会などから追放されている黄禹錫教授。
現在は、クローン犬ビジネスを成功させているようです。ただ、人に役立つ研究であると同時に、倫理的な批判があることも事実です。
今後の黄禹錫教授の動向にも注目していきましょう。