韓国ソウルにある九龍村の歴史と魅力を徹底解説します。
ソウル最大のスラム街でありタルドンネ(月の町)と呼ばれる九龍村の読み方や場所、ソウルからの行き方、過去に起きた事件、現在の様子、出身の芸能人やアイドルについてもお届けします。
この記事の目次
九龍村とは韓国ソウルのスラム街
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出典:https://namu.wiki/
「九龍村」とは、韓国・ソウルにあるスラム街です。
韓国で最も有名なスラム街のひとつであり、高層ビルやショッピングモールが建ち並ぶ江南区という裕福なエリアの中にあることから、「江南地区の最後のスラム」「ソウル最後のスラム」と言われています。
都市化が進むソウル中でまるで時間が止まったかのように取り残された雰囲気があり、日本からも観光客が訪れる場所となっています。
近年は都市開発の対象に指定された地域として注目を集め、再開発や立ち退きに関する問題が日本のメディアで取り上げられることも増えました。
ここではそんな韓国ソウル最大のスラム街・九龍村の歴史と魅力をまとめました。
タルドンネ(月の町)というロマンチックな名称で呼ばれる理由、九龍村の読み方や場所、ソウルからの行き方、過去に起きた事件、現在の様子、出身の芸能人やアイドルについてもお届けします。
九龍村の読み方は「クリョンマウル」
九龍村の読み方は「クリョンマウル」です。
英語表記では「Guryong Village」、ハングル表記は「구룡마을」です。
九龍村の場所、ソウルからの行き方
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出典:https://m.news.nate.com/
九龍村の場所は、韓国・ソウル江南区の一角にあります。
名前は「九龍山」に由来しており、九龍村はその山の裾に位置しています。
江南区は高級住宅地やハイブランドの路面店がある狎鴎亭や清潭洞をはじめ、ソウルで最も裕福なエリアの一つとして知られています。
高層ビル、ショッピングモール、高級レストラン、レジャースポットやデートスポットが立ち並ぶ華やかなエリアですが、その江南に隣接する形でスラム街の九龍村があります。
九龍村にはバラック小屋や簡素な作りの住宅が密集しており、奥へ進むと江南の高層ビルを見上げることができるなど、対照的な光景が広がる様子が印象的です。
九龍村の最寄駅は地下鉄盆唐線「九龍駅」
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出典:https://kepper.tistory.com/
九龍村の最寄駅は、地下鉄盆唐線「九龍駅(구룡역)」です。
九龍村は駅から徒歩10~15分ほどの距離にあり、ソウルからは地下鉄を乗り継いでアクセスできます。
ソウル駅から地下鉄で九龍駅に行くルートを2つ紹介します。
①ソウル駅(4号線)→東大門歴史文化公園(2号線)→往十里(水仁・盆唐線)→九龍駅
②ソウル駅(1号線)→清涼里(水仁・盆唐線)→九龍駅
①は所要時間約30分と短めですが、乗り換えが多いです。
②は所要時間約45分で長めですが、乗り換えは1回で済みます。
韓国地下鉄の乗換アプリは日本語対応しているものも多いため、九龍村を訪れる日時や旅行スケジュールによって最適な行き方を調べてみてください。
また、ソウル駅からタクシーで約30分なので、地下鉄の乗り換えに不安がある方はタクシー移動も選択肢に入ります。
初めて九龍村を訪れる際はNAVERマップやコネスト地図アプリなどを活用し、道に迷わないよう気を付けてください。
九龍村観光の見どころ
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出典:https://www.epnews.net/
九龍村の最寄駅である九龍駅周辺は、近年になり開発が進んだ新しい街の雰囲気で、洗練された建物が多く、スラム街があるようには思えないきれいな駅前です。
しかし九龍村から九龍村に向かって歩くと、突然スラム街の入口が現れます。
ゴミ処理施設の奥に集落が広がり、トタン屋根や布の壁でできたバラック小屋が並ぶ様子が目に入ります。
山の裾にあるこじんまりとした平地にギッシリとバラック小屋が建ち並び、日用品や壊れた家電などの生活用品が壁の一部に使われている様子に、観光客は“アートみたい”という感想を抱くこともあるようです。
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出典:https://www.ajunews.com/
九龍村を奥へ進むと、振り返った視線の先に江南の高層ビルや高級住宅街が見えてきます。
道を挟んだすぐ隣に高級住宅地があり、貧富の差を視覚的に感じることができます。
たった一本の道を隔てるだけで、生活基盤さえ十分に整っていないスラム街と、韓国の富裕層が暮らす江南が隣接する。
その独特な立地が九龍村の特徴です。
また、九龍村への訪問の前後には、江南エリアで食事やショッピングを楽しむことができます。
煌びやかなショッピングモールや高級ブランド店、有名レストランが軒を連ねているので、洗練された雰囲気の中でハイクラスな韓国を実感できるでしょう。
九龍村訪問のマナーや注意点
九龍村訪問で気をつけたいのは、九龍村は観光地ではなく、あくまで実際に多くの住民が暮らしている生活の場所であるということです。
そのため九龍村を訪れる際には住民の生活を尊重し、周囲の環境に配慮した行動を心がけることが大切です。
写真撮影に関しても住民に無断で撮影を行うことは避け、可能であれば住民の許可を得るようにしましょう。
また、大声での会話や大人数での訪問も避け、なるべく静かに過ごすことを心がけましょう。
もちろんゴミは持ち帰り、住民の私物や建造物に触れることも避けましょう。
九龍村の住民は他の多くのスラム街とは異なり友好的な人が多いと言われていますが、親切な態度で接してくれる住民がいる一方で、外部の目にさらされることを快く思わない住民もいます。
九龍村が抱える生活環境や住民の暮らしは一括りにできるものではないので、人間の生活の場所であることを意識し、住民の生活を尊重することが大切です。
九龍村はタルドンネ(月の町)と呼ばれている
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出典:https://www.hankyung.com/
九龍村は別名「タルドンネ(月の町)」と呼ばれています。
月の町というロマンチックな響きとは裏腹に、そう呼ばれるシリアスな理由があります。
韓国ではタルドンネとは“坂道を登り切った高い場所にある貧困集落”を指す言葉で、月に届くほど高い場所にあることからタルドンネと呼ばれるようになりました。
元々は居住地として許可されていない場所に不法滞在という形で生まれた集落で、不便な場所であればあるほど都市開発の手が及ばないことから高所に多く作られたのです。
九龍村は山の裾にできた集落ですが、釜山市西区峨嵋洞など坂に連なるように家が建ち並ぶタルドンネもあります。
一部タルドンネは観光地化されて残されているものの、現在は多くのタルドンネが取り壊されており、九龍村は「ソウル最後のスラム街」とも呼ばれています。
九龍村の歴史
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出典:https://www.hankyung.com/
ここからは九龍村の歴史について紹介します。
九龍村は1988年ソウル五輪を機に生まれた
九龍村の歴史は、1988年開催のソウルオリンピック前後にさかのぼります。
九龍村は、もともと京畿道光州郡(現在の京畿道光州市)に属していましたが、1975年にソウル特別市・江南区に編入されました。
1980年代初頭まではのどかな雰囲気の農村でしたが、その後急速に都市化が進み、オリンピックに向けて都市美観の改善のため多くの貧困層が強制立ち退きを余儀なくされました。
十分な住居が提供されず住む場所を失った人々の多くは日本でいう生活保護受給者、高齢者などの貧困層で、住む場所を追われた人々が押し寄せるようにこの場所に辿り着き、現在の九龍村の土地を違法占拠し簡易住宅を建築しました。
その後もインフラなどの生活基盤が整わないない中でも次第に人口が増加し、家賃を支払う必要のない場所で生活することを選んだ人々により、現在に至るまで残り続けるスラム街が誕生しました。
都市開発の対象となるも住民は反対
九龍村は高級住宅街である江南に隣接しているため土地の価値が高く、行政により再開発計画が進められていますが、反対する住民により長年にわたって行政と住民が対立しています。
1990年代〜2000年代頃、九龍村が都市開発の対象に指定され、再開発の計画がスタートしました。
再開発計画の目標として、2018年に敷地撤去開始、2019年に敷地分譲、2023年の入居を目指す計画であることが発表されました。
一時は停滞したものの2014年頃に大規模な開発プロジェクトの再開が決定し、2015年には九龍村を取り壊して住民に補助金付き住宅を手配することが提案されました。
2019年には1107世帯のうち約40%の406世帯が移転し、2025年までに再開発を完了する予定であると伝えられました。
しかし2025年2月現在も再開発は着手には至らず、計画は延期されたままで、行政と住民の対立のニュースばかりが聞こえてくる状況です。
再開発計画により、不動産価値の高い江南区内ということで移住を検討する人や投機目的の人も増加しましたが、その後も計画に遅れが生じており、九龍村の再開発は現在も停滞しています。
九龍村で発生した事件事故
出典:https://www.ntoday.co.kr/
九龍村は住民のほとんどが低所得層の高齢者で、住民登録をしておらず、住宅の安全基準を満たしていません。
また、生活基盤が厳しいことや不法占拠などの背景から、これまでに多くの事件事故が発生しています。
ここからは九龍村で発生した事件事故について紹介します。
九龍村の事件事故:大規模火災
九龍村の住宅は簡素な作りのバラック小屋であることから、住宅の安全基準を満たしていません。
そのため火災のリスクが非常に高く、2023年1月に発生した火災では60軒以上の家屋が焼失し、500人の住民が避難を余儀なくされました。
このような大規模火災は珍しいことではなく、過去にも何度か大きな火災が発生しています。
2014年には住宅16軒が焼失し、1人の死者が出る大きな火災事故がありました。
2017年にはガスヒーターが原因による火災が発生しています。
2022年には住宅3軒が焼失し、住民5人が避難する火災が発生しました。
その中でも特に大きい火災事故が2023年のものです。
九龍村の住宅は多くが木材や布などの簡易的な素材で作られており、火災や自然災害への耐性が非常に低いです。
今後もこのままの生活環境が続くようであれば、再び大規模な火災に見舞われる危険があります。
火災事故以外の自然災害にも弱い
九龍村はもともと、集中豪雨により多大な被害を受ける場所でした。
江南地域がくぼんだ地形であることが理由で、日頃から雨の被害に悩まされる地域である上、九龍村の住宅は簡素な作りのため降水量の多さに耐えられず家が浸水する、流されるといった問題も起きています。
高級住宅の多い江南エリアは雨に強い建築や雨水処理などが徹底されていますが、その余裕がない九龍村は雨により頻繁に被害を受けており、韓国のテレビニュースでも連日のように報道されていました。
警察沙汰になる事件も発生している
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出典:https://www.chosunonline.com/
2024年11月、九龍村で再開発計画に反対する住民により、抗議のためのやぐらが建てられ、不法に高さ10メートルの鉄製やぐらを設置したとして6人が警察に連行されました。
事の発端は2024年5月にソウル市が九龍村に25階建・3520世帯の共同住宅を建設し、大規模住宅として再開発する計画を発表したことが原因です。
共同住宅建設の計画に伴い、住民らは賃貸住宅補償ではなく住宅の入居権を補償として要求しました。
法的に入居権が認められるのは合法的な住宅所有者か、もしくは無許可建築物であっても1989年1月24日以前からの入居者であればアパート分譲権を受けることができます。
しかし1989年1月24日以降に九龍村に住み始めた住民には居住確認書が法的に交付されず、居住確認書がない場合は住宅の分譲を受ける権利が与えられません。
そのため入居権を求める九龍村の住民200人以上が、6時間にわたり「居住事実確認書」の交付を求める抗議集会を開きました。
集会参加者は高さ10メートルの鉄製やぐらの上にテントを張り、垂れ幕を下ろして抗議の意思を表明。
これが都市開発法違反に触れ、やぐらを設置した作業員らが警察に連行されたとのことです。
九龍村出身の芸能人・アイドル
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出典:https://ja.namu.wiki/j
九龍村出身の芸能人・アイドルについては、詳細な情報がなく、確実に九龍村出身と言える芸能人・アイドルがいるかは不明となっています。
九龍村は江南区の中のエリアの一つであり、韓国芸能界には江南区出身の芸能人・アイドルが数多くいますが、そのほとんどは九龍村ではなく高級住宅街と呼ばれるほうの江南です。
九龍村出身の芸能人・アイドルの情報は見つからなかったため、ここでは九龍村と隣接する江南出身の芸能人・アイドルの一部を紹介します。
江南出身の芸能人・アイドル
【SHINHWA】キム・ドンワン
【SHINHWA】ERIC(ムン・ジョンヒョク)
【Fin.K.L】オク・ジュヒョン
【Fin.K.L】イ・ジン
【2PM】オク・テギョン)
【少女時代】チェ・スヨン
【EXID】ハニ
【BLACKPINK】ジェニ
【BTOB】ジョン・イルフン
【JBJ】クォン・ヒョンビン
【AB6IX】イ・デフィ
【宇宙少女】ナム・ダウォン
【(G)I-DLE】チョン・ソヨン
【I.O.I】キム・ソヒェ
【Stray Kids】キム・ソンミン
【TOMORROW X TOGETHER】カン・テヒョン
【LE SSERAFIM】キム・チェウォン
【TREASURE】キム・ドヨン
【TREASURE】チェ・ヒョンソク
【aespa】ジゼル
【RIIZE】ソンチャン
【ZEROBASEONE】キム・ギュビン
江南区民は九龍村に無関心?
“隣人”である江南区住民と九龍村住民ですが、道一本隔てただけの別世界に生きる彼らは、どちらもお互いの生活に無関心であるとされています。
ただし韓国内では“スラム街”というイメージから差別的視線で見る者もいるようで、富裕層が暮らす街の隣のスラム街という理由から「貧しいフリをしている」「富裕層の人達と違って頑張って働かない」といった非難が出ることもあるようです。
生活における貧富の差は日本でも問題になることが多いですが、九龍村は富裕層が暮らすエリアとスラム街が隣接していることで、より一層貧富の差を感じやすくなっているようです。
九龍村の現在
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出典:https://www.khan.co.kr/
再開発計画が進みながらも、住民の反対により停滞している九龍村。
“まもなくソウルから姿を消す最後のスラム街”と言われている九龍村ですが、現在はどのような状況に置かれているのでしょうか。
九龍村の現在、そして未来について見ていきましょう。
九龍村の現在の問題
九龍村は現在もスラム街と呼ばれており、インフラの整備が十分に行われていません。
そのため住民は劣悪な生活環境に置かれており、老朽化した水道、十分ではない排水設備、低い位置にあり危険な電線など、健康面・生活面のリスクに直面しています。
多くの住民は無許可で居住しており、正式な住民登録がなされていないため、行政からの支援も十分ではありません。
その一方で、江南区内にあることから九龍村の潜在的な土地の価値はとても高く、再開発計画が進行中で、住民は立ち退きを迫られています。
前述した25階建・3520世帯の共同住宅建設の計画は、1989年1月以降に九龍村に住み始めた住民には居住確認書が交付されず住宅の分譲を受けられないことから、多くの住民が住むところを失うことになってしまいます。
こうした背景があり住民と行政の間で意見が対立しており、この問題をどう乗り越えるかが九龍村の今後の課題になります。
九龍村の再開発計画の詳細
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出典:https://www.ohmynews.com/
九龍村の再開発計画は、25階建の共同住宅建設の他にも、さまざまな再開発計画が立てられています。
商業施設も建設される予定で、最終的には高級住宅街やショッピングエリアである江南中心地と遜色のない環境になるのではないかと言われています。
ただし住民たちの生活環境やコミュニティの維持がどうなっていくのかについては未だ不安が解消されていません。
住民たちが長年にわたり築いてきた独自の文化が失われることへの懸念が強く、現在も再開発計画は頓挫こそしていないものの、停滞が続く保留状態となっています。
2024年12月、新たな再開発計画が発表される
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出典:https://m.dnews.co.kr/
2024年12月、韓国のニュースにより、九龍村が当初の3520世帯の住居計画から367世帯増加した3887世帯の住居計画に変貌する予定であることが明らかになりました。
ソウル住宅都市公社により「九龍村都市開発事業計画」について発表され、共同住宅建設用地が4ブロック、住宅と商業施設の複合用地が2ブロックの計6ブロックを開発する計画と明かされています。
ソウル住宅都市公社が4ブロックを直接開発し、残り2ブロックは民間建設会社に売却する予定とのことで、開発が完了すれば賃貸や分譲あわせて計3887世帯の共同住宅が建設されます。
この開発計画では、元々の住民と新規の住民が調和のある環境で暮らせるよう、断絶意識や物理的な境界のない新たな形の公共住宅を建設する方針とのことで、現在は理想を実現するための設計公募が行われています。
現在はまだ計画が発表された段階であるため、住民と行政の間にどんな対話があったのか、住民たちはどんな反応を見せているのかについては、今後徐々に明らかになっていくものと思われます。
九龍村の今後はどうなる?
現在までに住民と行政との間で十分な対話が行われたという記録はなく、住民たちは今もなおソウル市に対して対話を求める抗議活動を行なっています。
住民の不安や要求が解消されない限りは、再開発計画が大幅な進展を迎えるのは難しいかもしれません。
九龍村の再開発計画は、単なる再開発計画には留まりません。
住宅建設問題だけでなく、貧困問題や住民の権利などの課題の上、さらに土地の価値による利権問題まで複雑に絡み合っています。
冬の寒さや夏の暑さをしのげないほど簡素な作りの家だとしても、そこで暮らしてきた人々は“我が家”として愛着と誇りを抱き、立ち退きを求められる現実に対して不安や悲しみをあらわにする声も上がっています。
今後は九龍村の住民の生活が守られ、現在まで築いてきたコミュニティが尊重された上で、住民と行政が双方納得する形で再開発が進み、ソウルという都市の未来がさらに発展していくことが期待されます。
まとめ
韓国・ソウル江南区にある“ソウル最後のスラム街”九龍村の歴史と魅力、現在の状況についてお届けしました。
まもなく消滅するであろうと言われているタルドンネ(月の町)・九龍村に訪れたい人は、過去に起きた事件事故、再開発における現在の様子をしっかりチェックした上で、危険の無いように注意しつつ場所や行き方を参考にしてください。
都市開発と貧困問題の両面で注目されている九龍村がどのような未来を迎えるのか、今後の展開も引き続き注目していきましょう。